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【前編】「メガトレンド」を企業の基部とするために。知っておきたいことを伝授します

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ボストン コンサルティング グループ(BCG)など複数の大手ファームでコンサルティングに従事した経験から、コーポレート領域のアジェンダに精通。昨年は経済産業省「CX(コーポレートトランスフォーメーション)研究会」の座長を務めるなど「日本企業が世界で勝ち抜くためのグローバル競争力・経営力の強化」に向けた提言活動をライフワークとしている日置氏に、世の中を形づくる大きな潮流である「メガトレンド」をどのような視座で捉えるべきかお話を伺いました。

目次

プロフィール紹介

日置 圭介 氏

税理士事務所勤務から英国留学を経て、PwC、IBM、デロイト、BCGでコンサルティングに従事。デロイトでは執行役員パートナー、BCGではパートナー&アソシエイトディレクターを務めた。2023年3月、独立社外取締役就任を機に、re-Designare合同会社を設立。株式会社メドレー社外取締役、立教大学大学院ビジネスデザイン研究科兼任講師、一般社団法人日本CFO協会/一般社団法人日本CHRO協会シニア・エグゼクティブ他、事業会社、メディア企業、ITベンダー、スタートアップなどでもアドバイザーや顧問を務める。ライフワークとして、日本企業が世界で勝ち抜くためのグローバル競争力・経営力の強化に向けた提言活動も推進。経済産業省「グローバル競争力強化に向けたCX研究会」座長(令和5年度)。著書に、『ファイナンス組織の新戦略』(編著、日本経済新聞出版社、2009年) 、『ワールドクラスの経営』(共著、ダイヤモンド社、2020年)がある。

メガトレンドなどの「先を読む」力が、将来に向けた準備を可能にする

――「メガトレンドを読むことは、企業の競争力を左右する、経営の基部である」と提言されていますが、どのようなことを指しておられますか? 

日置氏:メガトレンドという言葉に引っ張られる必要はありませんが、要するに経営には「先読み」が大事ということです。古代から世界中で諜報活動や情勢分析が行われていたように、先読みは「企業のみならず、国レベルでも昔から変わらない運営上の肝」の1つです。

いかに広く情報を把握し、早く伝達して正しく整理できるか。そして、それらを蓄積し続けて独自のインサイトなどの組織知をいかに経営に活かしていけるか…ということが鍵になります。

未来を正しく言い当てることはできませんが、常に先を見定めようと努力し続けることで、変わりゆく将来に向けた準備がある程度は可能になる。そのような準備の状態が企業の長期的な競争力に影響を与えますので、メガトレンドを経営の基部とすべきであると考えています。

マネジメント・アドバイザー 日置圭介氏

日頃から準備を重ねて「他が気づいた時には動けています」が正解

―― メガトレンドを経営の基部としたい企業が注意すべきポイントを教えてください。

日置氏:当然ながら、メガトレンドだけでは経営の基部にはなりません。ぼんやりと世間のトレンドを追ったところで何も生まれませんからね。「自社が大事にしている「価値観」やそこから来る「事業観」、技術や市場創造力などの「強み・弱み」といった主観的視点と、顧客を取り巻く環境や競合との力関係といった客観的な視点。この両面の視点からの様々なフィルターを通してトレンドにどんな意味づけをするか」ここまでを1セットとして実践して初めて、経営の基部になっていると言えるでしょう。

その際に、自分たちに都合の良い解釈をしないようにすることが、注意すべきポイントです。

動きが早い企業は皆準備しています。少し前まで「外資はトップダウンだから意思決定が早い」などとおっしゃる日本企業の方によくお会いしました。確かに今もそういう面はありますが、オペレーションレベルならともかくストラテジックな領域ではそんなに簡単な話ではありません。

多勢が気づいた時に動いている企業があるとすれば、他社が気づく前に気づいて、日頃から泥臭く行動するための準備をしていたと考えるべきでしょう。「他が気づいた時には動けています」が正解。その大きな要因となるものが、先を読む力なのです。

これは、エクセレントな海外企業だけができているということではなく、質の良い成長している日本企業にも見られる基本動作です。

過去からのコンテクストとしての「メガトレンド」の重要性

―― そもそもメガトレンドはどこから始まったのでしょうか?

日置氏:「メガトレンド」という言葉を最初に使った人物は、アメリカの未来学者ジョン・ネイスビッツと言われています。彼は1982年に10のメガトレンドを提示しました(※図1)。

図1:出所「ネイスビッツの10のメガトレンド」(1982年)をもとに日置氏が作成

1960年代後半から1980年代初頭は、国際未来学会や未来研究所、日本でも日本未来学会が設立され、『未来の衝撃』や『第三の波』などで知られるアルビン・トフラーや『大転換期』のハーマン・カーンなどの未来学者が活躍するなど “未来”への関心が高まっていた時代でした。

これ以前の19世紀後半から20世紀初頭や、近年では2000年から2010年頃にかけても同様に“未来”への注目が集まっていましたが、技術の進化によって社会が転換期を迎えそうなタイミングには、期待あり不安ありの心理状態から人間はこのような志向性をもつのだろうと推察しています。政情が不安定な時代には地政学が注目されるのも同じかもしれませんね。

ネイスビッツのメガトレンドは、技術や経済、社会などの動向について、その方向性や振れ幅を取り上げたシンプルなものですが、全てのトレンドが当たっていて、改めてすごいなと感心します。

ただ、未来学者の仕事としてはこれでOKだとしても、企業が経営に長期的なトレンドを活かす場合には、経営の思考プロセスに組み込むための整理が必要になります。具体的に言うと、定量化できるものは定量化する、定性的なものと合わせて構造化する、先に述べたような主観・客観の視点を取り入れたフィルターを通してシナリオ仕立てに組み立てるなどプラクティカルな対応をすることが必要でしょう。

正確に未来を予測することは無理だと思っていますが、一定の幅のなかで「先々をどう捉えることができるか」がポイントとなります。

―― どのような幅で先読みをすればよいのでしょうか?

日置氏:項目ごとにスケールの取り方やインパクトの測り方は異なりますが、オーソドックスなものとしては「ベースとなるケース」に加えてベスト、ワーストという幅をつけるやり方でしょうか。

また、幅とは異なる見方で、メガトレンドというと先のことに気を取られがちになりますが、過去からのコンテクストつまり歴史というトラックレコードの重要性も忘れるべきではないでしょう。

昨今の技術の進化は加速度的にスピードを増しており、分子・量子、遺伝子レベルから宇宙に至るまで広域です。一方で、人間自体はそれほどの速さで進化しているわけではありません。例えば食や公衆衛生などの環境改善もあって健康・長寿にはなっていますが、新しい技術が登場した際に、人はそれを正しく使うとは限らず、間違いを犯す可能性も高い。人間社会が右肩上がりの直線的な発展をしてきたわけではないことを忘れないようにしたいものです。

反対に、歴史の中には「忘れられている良い面や物事を動かしていくためのヒント」も当然あるわけですから、そうしたものも思考の手がかりにできるとよいですね。

人口動態とテクノロジーが「先読みのイロハのイ」

―― 先読みに役立つフレームワークを教えていただけますか?

日置氏:フレームワークは物事を整理する道具に過ぎないので、そこから見えてくるトレンドというものは存在しませんが、外部環境を整理・分析するフレームワークとしては、伝統的なPEST(Politic/Economic/Social/Technology)で十分です。あとは各企業の事情でエネルギーやデジタルなど焦点をあてたい項目を検討する形でしょうか。

その際、項目間の関係性に注意しておく必要があります。特に「人口動態とテクノロジー」は他の項目にさまざまな影響を与えるトレンドです。これらは常に気にしておくべき「先読みのイロハのイ」となりますので、多くの企業がやっておられると思います。

私は10年程前に、卓越したグローバル企業がどのようなメガトレンドを読んでいるのかトレンド分析を行いました。当時は「メガトレンドのトレンド」と呼んでいましたが、エクセレントなグローバル企業も、先の項目についてかなり重視していました。

――どの企業にとっても特に必須となる項目はありますか?

時代が移っても「人口動態」は全ての土台になります。有名なマルサスの『人口論』は未来予測の走りと言えます。また、ピーター・ドラッカーは著書『創造する経営者』で「未来について言えることは二つしかない。第一に未来は分からない。第二に未来は現在とは違う」と述べていますが、彼は何を語る際にも人口という指標を重視していました。

なぜなら人口問題はほぼ確実に読めると言われていたからです。ただし、近年では図2に示したように将来人口の見立てに幅や変化も出てきています。

図2:出所:「国連統計」(2019年版、2022年改訂版)、ヨルゲン・ランダース『2052』 をもとに日置氏が作成

読みやすいとされる人口動態であっても、都市化の進展や女性の権利向上など社会・文化的な事象が影響して先々の見立ては変わるということですね。

とはいえ人口動態は消費市場と労働市場の両面から重要なトレンドであることに違いありません。国単位、地域単位あるいは国をまたいで同じようなプロファイルの都市を括るなど、さまざまなカテゴライズで所得や年齢構造と掛け合わせて見ていっても多くの気づきを得られるでしょう。それらは短中長期の経営・事業戦略の策定にも活用できます。

また、人口動態から背景にある社会動向を深掘りしていくための手がかりを得られることもあります。「人口が減少している日本において、実は世帯数は増えている」など、相反するような傾向が見られる統計もあって興味深いですね。少子高齢化が進む中で、社会活動の原単位とも言える世帯数が増えることによって、社会システムにおける他のアクターはどのような影響を受け、社会コストはどう変化していくのか。いろんな考えが頭の中を駆け巡ります。
(後編に続く)

【後編】では、日本企業がメガトレンドをどのような姿勢で捉えるべきか、また、経営判断に活かすために情報をインプットする際のポイントなどをお話いただきます。

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日置圭介氏 書籍紹介ページ『ワールドクラスの経営』(ダイヤモンド社)

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